想うのはあなたひとり―彼岸花―
~7.裏切りキス~
気がついたら走っていた。
気がついたら春風に包まれていた。
髪の毛の毛先が揺れていた。
太陽がオレンジ色に変わろうとしていた。
唇にはまだ温もりと感触が残っている。
なぜあんなことしたの?
なんで私にキスをしたの?
皐は奈月さんが忘れられないんでしょう?
いくら顔が似ていても私は奈月さんじゃないよ。
もしかして私と奈月さんを間違えたとか?
手紙を読んでいた私を見間違えただけ?
やめてよ、なんなの。
…胸が、体が熱いよ。
「意味、分かんない…」
逃げ出した私が行き着いた場所はマンションだった。
そのうち皐は帰ってくるかもね。
壁が薄いから足音が聞こえるかも。
私は赤色のソファーに座り息を漏らす。
ちょっと疲れちゃった。
走りすぎちゃった。
こんなに走ったの久しぶり。
指先で唇に軽く触れる。
キスをするのは椿にされたあの日以来。
どうしよう、頭の中…
皐でいっぱいだよ。