想うのはあなたひとり―彼岸花―
パイプ椅子がこれまた冷たい。ワンピースの薄い生地は簡単にその冷たさを伝えてくる。
どくんと鳴る心臓は熱いのに、皮膚は冷たい。
この温度差は何なのだろう。
「お待たせ。今回も30分ね。今日は僕が監督じゃないけどいいよね?じゃあごゆっくり」
そう言って保科さんは面会室を後にした。
そして次に入ってきた人物は前より少し大人に近づいていた。
「妃菜子、来てくれてありがとな」
やっと会えた。
1ヶ月ぶりの椿。
少し背が伸びたね。
ちょっと痩せた?
引き締まったって言ったほうがいいのかな?
でもかっこよくなったね。
またときめいちゃうよ。
でもごめん…
今日はなんだか変なの。
あなたを見たら涙が出てくる。
…ごめんね、椿。
私はあなたを裏切ってしまった。
許してくれ、なんて言わないから、私の傍を離れないで欲しい。