想うのはあなたひとり―彼岸花―


情熱の赤を足しても、
太陽の色のオレンジを足しても、真っ青な空色を足しても、私はずっと薄汚い色のままなのかな。




「友達はみんないい人…。私のことを名前で呼んでくれるし、それに…」





「またそれに?妃菜子…何か言いたいようだね?どうかした?」




このことを言ったら私は後悔するのだろうか。
するのなら言わない方がいいだろう。
でも隠し事は嫌だ。
椿の前では綺麗なままでいたい。
私は下を向いて決心がつくのを待つ。
そして決心がついたとき、真っ直ぐ椿を見つめた。
今日はじめて真っ直ぐ見つめたかもしれない。

やはり椿は大人へと近づいていた。




「あのね…同じクラスに美波皐っていう男の子がいるの…」




「…うん、そうなんだ?」





「その子…椿に似てるの…」





私は見逃さなかった。
椿の表情が一瞬だけ固まるのを。





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