想うのはあなたひとり―彼岸花―
事件は、季節外れの台風の日に起こった。
まさかあんなことが起きるなんて、私には分からなかった。
予知能力なんてないし、普通のどこにでもいる中学三年生だ。
私は普通?
普通なのかな。
でも見てよ、この傷。
私は真っ直ぐ鏡を見つめる。
洗面所にある鏡は、上半身を写していた。
「…汚い体…」
青アザ、みみず腫のように赤い傷。
数えてみようとするが、現実を突き付けられそうでやめた。
これは夢よ、きっと。
明日になればこんな傷なんて消えているはず。
そう思って何年経ったかな。
遠くの方から母親の声が聞こえてくる。
「妃菜子!!」
花本妃菜子(はなもと ひなこ)
これが私の名前。
今叫んでるのは私の母親。
仕事もしないで毎日酒に溺れている。
ストレスが溜まったら私を殴ってストレス解消している。
これでも母親。