想うのはあなたひとり―彼岸花―
それとも満員の車内のせい?
皐に会うのが怖いから?
理由はきっと全部だ。
でも逃げたくない。
後ろを向きたくない。
私は前を向く。
あなたと向き合いたいから。
S町に着き、私は繁華街のある東口に出た。
やはりすごい人。
今日が金曜日だからかな。
あの日からもう一週間が経っていた。
「…妃菜子ちゃん?」
そんなとき、後ろから声が聞こえた。
この声…聞いたことある。
神様の悪戯を助言した彼だ。
「…葉月リュウ?」
「何してるの?こんなとこで。」
私の後ろにいたのは、葉月リュウだった。
私は彼の制服を見てピンときた。
リュウが前に言っていた言葉。「僕が興味あるのは僕を指示してくれる人だよ」
そうなんでしょ?隠さないで教えなさいよ。
突然あなたが私の前に現れるのはおかしい。
何の接点もないし。
あなた関係してるんでしょう?
あの人と。
「…あなたを指示してる人って吉岡玲奈でしょ?」
そう言った瞬間、リュウは白い歯を見せて笑った。
「そうだよ。僕は玲奈の奴隷だから」
なぜ人間は素直に言葉を伝えられないのだろう。
怖がっているからかな。
前に進みたくないからかな。
違う…。
勇気がないだけだ。