想うのはあなたひとり―彼岸花―
運命が動く。
ゆっくりと、近づく。
新たな真実。
車を見た瞬間、私は目を反らせた。
ぎゅっと目を閉じて呼吸を整える。
潮の香りが私たちを包んだ。
「…妃菜子ちゃん!!」
心配する保科さんの声。
皐の背中に顔を埋める。
…聞きたくなかった。
「すいません、妃菜子を車に乗せてもいいですか?」
「あ、うん。そうだね。話は向こうでするよ」
そう言って保科さんは後部座席のドアを開ける。
向こうってどこ?
椿のいない、少年院?
私は一度も保科さんと目を合わせなかった。
合わせたくなかったわけではない。
合わせるとまた泣きそうだったから。
制限速度を守るかのような安全運転で運ばれていく。
あなたがいないあの場所へ。
穏やかな波音は、まるで椿の生涯を表しているようだった。