想うのはあなたひとり―彼岸花―


行ったり来たり。
同じ速度で陸に上がり海に還る。
時々台風が来て荒れるけれどいつも同じ速度。
それが心地よくてずっと聞いていたい。
椿もそういう人間だった。
椿をたとえるのなら蒼い海。
透き通っていて、綺麗で、屈託なんかなくて。
人々に笑顔を与えて、感動を与えて、壮大な心を持った人だった。




車に乗っている間、私は黙ったまま。
もちろん保科さんもだ。
何て言ったらいいのか分からないのだろう。
でも私は保科さんを殴ろうなんて思わなかった。
保科さんのせいじゃない。


こういう運命だったの。




運命は複雑だから。




見慣れた景色。
いつもならワクワクして見ていた景色なのに今はそんな気持ちすらない。





真っ赤な彼岸花。
人に嫌われる彼岸花。
私たちは彼岸花だった。
でも椿は違う。




椿は岸の近くで強く咲いていたのだから。





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