想うのはあなたひとり―彼岸花―



16歳の私たちは突然降りかかった真実を全て受け止めるには心に負担が大きくて。
それくらい自分というものが小さかった。


そしてそれを「あんなこともあったね」と話すのには、10年かかった。




椿のいない少年院に着く。
保科さんは会議室のような物静かな場所へ、私たちを案内した。
もしこの時、保科さんが「冗談だよ」って言ってくれたら、私は笑える気がした。

そんな、気だけした。



「…まず、最初に謝らせて欲しい。僕の監督不足でこんなことになってしまって…本当に申し訳ない。」




会議室が狭かったのか、壁に弾いた言葉たちはすぐに私の耳へと入ってきた。
やはり椿はいないという事実を改めて聞かされた。




「妃菜子ちゃんとの約束を守れなかった。」





“いつかまた椿と会わせてね”



これがあの事件のときに保科さんとした約束だった。





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