想うのはあなたひとり―彼岸花―



それは奈月さんが皐に宛てたNO7番ロッカーの手紙とよく似ていた。




「…こ…れ」




「妃菜子ちゃん宛の手紙だよ。きっと椿の本心が綴ってある。これは誰も読んでない。一番に妃菜子ちゃんに読んでもらいたかったから」




“妃菜子へ”



達筆な字で書かれていた私の名前は、繊細さを表していた。
椿の性格が嫌なくらい溢れている。


私はそれを手に持った。
空気のように軽いそれの中身はとても重かったんだ。




「…椿…。」




返事はないと分かっていても名前を呼んでしまう。
俺はもういないと言うかのように手の中にそれが存在した。


ぽたり、と机に落ちる涙は一度離れてまた一粒の滴になる。





声を殺して泣いた。





“強く生きろ”






私はあなたを心の底から…
愛していました。




この手紙はまだ読めない。
もう少し、時間が経ったら…読むことにするから。



あなたの心の中に眠っていた真実を。




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