想うのはあなたひとり―彼岸花―
ごめん、ごめんね。
本当にごめんなさい。
螺曲がる運命。
忍び寄る影。
私たちに振りかかったのは信じられないことだった。
「玄関まで送るよ。ちょっと僕は椿くんの家族の人とお話があるから駅まで送れないけど…。代行してもらうから気をつけて帰ってね。わざわざ…来てくれてありがとう…。本当に申し訳なかった。」
会議室を出て保科さんはもう一度頭を下げた。
椿はもう戻ってこない。
あの笑顔もあの優しさもあの強さも。
もう消えてなくなってしまったの。
それを取り戻そうなんてそんな力は私にはないから。
ただ、あなたのいない世界を歩いていくのが不安なだけ。
信じていた希望が絶望に…変わっただけ。
「また…何かあったら連絡します…」
私も頭を下げて、皐の手を握り、歩き出す。
待合室のロビーに不安な表情を浮かべる中年の男性がいた。
この顔…見覚えがある。
そうだ…椿のお父さんだ。
白髪混じりの髪の毛に、喪服のようなスーツ。
長身だからか妙にそれが似合っていた。
でも、運命は変えることなどできなかった。
「…え?何で…」
突然皐が言葉を漏らす。
皐を見上げると目を開いて真っ直ぐ椿のお父さんを見つめていた。
残酷なほど悲しい運命がそこには待っていた。
「…何で親父がいんの?」
そして時が止まった。