想うのはあなたひとり―彼岸花―
残酷な運命に耐えられるほどそこまで強くなかった。
だから一緒に手を取り合って、生きていこうと決めたんだ。
カチッと時計が未来に進む。
そして正午のお知らせの音楽がロビーに響く。
それが悲しさを呼び寄せる。
表情を固まらせ、何も話さない椿のお父さん。
私の言葉を聞いて理解出来ていない皐。
残酷な運命に向き合おうとする私。
先に口を開いたのは皐だった。
私を支える腕が小刻みに震えている。
驚くのは当たり前。
もし私が皐だったらきっと父親を殴っているだろう。
「…は?何が…え…どういうこと?親父が椿のお父さんって何?」
皐の問いかけにも黙ったまま。口を頑なに閉じ、目を泳がせていた。
私は本当のことを聞きたい。
今ならそれを全部…受け入れるから。
…皐は椿の何なの…。
…椿は皐の何なの…。
「…皐…今まで黙っててすまなかった。本当はもっと前に言いたかった。」
そう言って、椿のお父さんは胸ポケットからあるものを取り出した。