想うのはあなたひとり―彼岸花―
こんな言葉を言わなければ、良かったのに。
私が母親の暴力に耐えれば良かった。
死にそうになったら警察に助けを求めれば何も失わずに解決したかもしれない。
でも当時の私には気づかなかった。
人を失うことがこんなにも辛いことなんて知らなかったから。
左手の薬指の指輪を触って確認をする。
「続きは自由になってからしよう」
果たされなかった約束。
私は何を想って生きていけばいいの?
「俺の知らないところで成長していくんだな」
あなたは何を考えていたの?
私には助けられなかったの?
なぜ一人で孤独な世界に逝ってしまったの?
答えて…答えてよ。
私は握っていた真っ白な封筒を見る。
“妃菜子へ”
この中に椿の想いが詰まっているのかな。
あなたの痛い感情を傷ついた心で受け止められるかな。
あなたが読んで欲しいと願うのなら、返事をして。
「椿…」
私が空に向かって名前を呼ぶと優しい風が私を包んだ。
草花が音をだす。
喜んでいるように。
そして私はゆっくりと中を開いた。