想うのはあなたひとり―彼岸花―
俺さ、不安だったんだ。
ずっと願ってた。
“妃菜子と皐が出逢いませんように”って。
でもそれは叶わなかった。
妃菜子は皐と出逢ってしまったのだから。
そして妃菜子の笑顔を取り戻したのは皐。
でも不思議なことに皐に憎しみはなかった。
むしろ感謝したい。
俺にできなかったことをしてくれたから。
皐なら妃菜子を守ってくれるって思ったから。
最近さ、皐が俺のところに逢いにきてくれた。
話を聞いていたら皐は俺と双子だと知らないんだと思った。
でもそこで俺から言う必要もないって思ったから言わなかった。
秘密にしたわけじゃない。
そんなことを言ったって意味がないと思ったから。
皐を見ていたら自分が重なって…何か安心した。
皐の口からは妃菜子の名前がたくさん飛び出ていた。
好きな人のことを夢中に話しているようだった。
俺は皐の話を聞いていて、嬉しくなったんだ。
妃菜子が俺の知らない場所で元気に生きていてくれさえすれば俺は幸せなんだ。