想うのはあなたひとり―彼岸花―



「椿くんに言われてたんだ。10年経ったら本当のことを言ってくれって。その頃にはきっと二人は幸せになってるからって。今まで隠していて本当にごめん。」




そう言って頭を下げる保科さんは10年前と何も変わっていなかった。




「椿は…今どこに?」




「更生期間5年終えて、今は画家になっているよ。最近雑誌にも取り上げられるようになってさ。ずいぶんと連絡取っていないから今どこに住んでいるかは分からないけど…椿くんも立派な大人になったよ。」




椿、あなたは画家になったのね。
そうだよね、よくあの河川敷で絵を描いていたもんね。

一度でいいから、あなたの描いた絵を見てみたいです。




「じゃあ僕はこれで。また時間があったら連絡するよ。またね」




保科さんはこのことだけを伝えて慌てて帰ってしまった。
今から未解決の事件の取り調べらしい。
彼も忙しい人だ。
私は紙ナフキンで涙を拭き、店をあとにする。




泣いちゃだめだ。
私は笑顔でいなくちゃいけない。
そう約束したから。






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