想うのはあなたひとり―彼岸花―
ありがとう。
本当にありがとう。
私はあなたを忘れません。
最後まで本当に…ありがとう。
歪む視界で彼の背中を見る。
オレンジ色に染まった彼の背中はとても美しかった。
「ママ、泣かないで…」
小さな体で私の体を包み込む紫音。
私はもう泣かないから。
ずっと笑顔でいるから…
「ひーなこ!紫音ー!」
そんなとき後ろから声が聞こえてきた。
その声は私の愛しい人。
「今日仕事早く終わってさ。何してんの?こんなところで。」
「彼岸花…見てたの」
「あ、今年も綺麗に咲いたね。ん?その絵どうしたの?凄い綺麗だね」
皐は慣れた手つきで紫音を抱きかかえる。
私は皐の耳元でこう囁いた。
「神様からのプレゼント」
きっとそうよね。
「ママ、僕今日人参の入った焼きそば食べたーい!!」
「パパもそれ思ってたんだ。唯一ママが出来る料理だからね」
「なによそれ!私だって少しは料理上手くなったわよ!」
「はいはい。妃菜子、ほら」
そう言って皐は私に左手を差し出した。
薬指にきらりと光る結婚指輪。
私は迷わず皐の左手に右手を繋ぐ。
触れあった瞬間…愛が生まれるの。
私の左手にはあなたからもらった絵がある。
リビングに飾ることにしよう。
いつでも笑顔で。
彼岸花のように強く。
「妃菜子…ずっと俺から離れんなよ」
ちょっと強引なあなたの傍で。
強く、生きていく。
END