想うのはあなたひとり―彼岸花―
何度も何度も、あの人は母親ではないと願った。
でもアルバムを開くと、必ずあの母親は写っている。
いつからだろう。
母親から笑顔が消えたのは。
「…やっぱりそうだ…」
いつも答えは同じ。
それは父親が他の女を作り、家から出て行ったときからだ。
母親が狂い始めたのは。
今こうして私が生活できるのも、月々払われる父親からの慰謝料があるからだ。
なぜ父親について行かなかったって?
そんなの…決まってる。
椿(つばき)と離れたくないもの。
「妃菜子!何度呼ばれたら気が済むの!?」
背筋が凍る。
近づいてくる足音。
私は慌てて脱いだ服を着た。
母親に名前を呼ばれる度、古傷が痛む。
「な、なに?」
こう笑顔を見せて、機嫌を損ねないようにするのが日課。
「お酒、買ってきて。引き出しの中にお金あるから。」
私が未成年って気付いてる?
何度も言わせないでよ。
「何回も言ってるよね?私は買えないよ…」