想うのはあなたひとり―彼岸花―


事件以来、私は食欲を失った。お腹は減るのだが食べたいとは思わない。
軽い拒食症と医者から診断された。
でもお父さんの悲しむ顔を見たくなくて、少しずつ食べられるようになったのだ。
今日からお父さんはいなくなる。

自分の体は自分で維持しなくてはならない。
せめて事件前の体重まで戻らなくちゃ。




「何…作ろう…」




料理なんて今までしたことなかったし…
今までお父さん任せだったと何も出来ない自分に苛立った。




「とりあえず、人参ともやしと…キャベツ?」




野菜コーナーからそれぞれ取っていく。
今日作ろうと考えたものは、私の好きな食べ物。


それは、焼きそば。


本当はお父さんが作る焼きそばなのだけれど。
お店で作られた焼きそばより遥かに美味しい。
そう言ったら店員さん、泣いちゃうかな。




「あとは…焼きそばの麺でしょ…」




呟きながらカゴの中に材料を入れていると、突然後ろから声が聞こえてきた。



聞き覚えのある声。




「妃菜子、何作るの?」




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