想うのはあなたひとり―彼岸花―
遠くから聞こえてくる。
近くなったところでもう一度鳴らしてみた。
小さな悪戯。
子供に戻ったかのよう。
「はーい?どなたー?」
目の前に現れたのは部屋着姿の皐。
私は皐を見上げてこう言った。
「ソース、貸して。」
「は…い?」
案の定、目を丸くさせて驚いている皐がいた。
その表情が見たかったの。
間抜けな顔、面白いわよ?
「焼きそばを作るのにソースがなかったら作れないでしょ?今その状況なの。ソース、貸して」
「んー…?あのさ、妃菜子さん?家庭にソースがなかったらさ、どうするの?」
「何が?」
「豚カツ食べるときとか?」
早くソースくらい貸せばいいのになぜそんなこと聞くの?
意味わからない。
でもくだらない皐の話に耳を傾けてしまう私がいた。
「…味噌?」
「名古屋人かよ!」
くだらない話が、どうしてこんなにも新鮮で楽しい話に聞こえるのかな。