想うのはあなたひとり―彼岸花―
「…妃菜子を見てるとつらくなる。何で…逢っちゃったんだろ」
また、割れた。
今度はひどい衝撃。
粉々になった、たぶん。
もう直らないくらい、細かく。
もう何も返す言葉がなくなった。
皐が今日言った言葉は全て嘘?
出逢ったのは運命、と。
蜜を求めにいく、と。
そう言ってきたのは全部嘘だったの?
あなたの頭の中、理解できません。
「…私は…この子じゃないわ…」
あなたに何があったかは知らないけど、私は私なの。
今までは存在を否定していたけど椿が守ってくれた命に否定などできない。
だから私はあんな行動を取ってしまったのだと思う。
立ち上がり、キッチンに向かう。
目に映る包丁の姿。
フラッシュバックする過去。
でも私は掛けられたハサミを取った。
“俺、髪の毛が長い女の子が好きなんだ”
ごめんね、椿。
スローモーションになる世界。
私は思いきり、自分の髪の毛にハサミを入れた。