花の都
序章・運命の出会いは絶望をつれて
悠久の時の中に、神々の住まう館があった。

白き光につつまれたそこはまさに百花繚乱。神々以外の何者も訪れることのできない『禁じられた楽園』だった。

だが、いかに美しく見えても、どこか寒々しい印象がつきまとう。
花は作り物のように、小鳥は声を失ったように、風はいたずら心を失ったように。
館の周りに生気はない。

その昔は女神たちのさざめきが辺りに満ちていた。
生き生きとした自然が、館に住まうものの心を癒した。

今はもう慰めにならない館。

―――全ては、ただ一人の女神によってもたらされた。



花の女神フローラ。全ての植物を司っている。
フローラこそ、白き館で最も愛された女神だった。フローラの花園からはなんともいえない、甘く優しい香りがただよっていた。
神々はフローラを、彼女の微笑みを愛した。

しかし、永遠に続くかと思われた時は、フローラ自身の手によって砕かれた。

ある時、フローラは出ていったのだ。彼女を愛したものたちを置き去りにして。

そして、白き館は嘆きのうちに閉ざされた。



―――長い時が過ぎた。
フローラは、彼女が造り出した世界に、創造神として存在していた。
白き館は遠い過去に置き忘れられ、かつての繁栄をしらぬ人々ばかりが存在するようになった。

神が遠いものになっていった。
フローラが造り出した世界には、フローラ以外の神が存在せず、女神は人々の前に現れなかったのだ。
人々の信仰は形だけのものになり果てた。

世界は混沌に覆われつつあった。
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