planetarium antique
すると、そこには見目麗しい青年が、少女のことを困ったように見つめて立っていた。
色素の薄い灰色がかった長い髪を後ろで束ね、焦茶色のベストにネクタイをしている。
端正すぎる美しい顔に四角い眼鏡を掛けている青年は、どうやら走って此処へ来たらしい。彼の額にはうっすらと汗が滲んでいた。
「…侑貴様、お姿が見えないと思いましたら、やはり此処にいらっしゃったのですか」
「え、あ…それは、あの…っ」
「また、屋敷を抜け出されるのですか?…これから華道の稽古が始まりますのに」
はぁ、と大きくため息をついて、わざと肩を竦める青年。
この美しい青年は、少女――黒羽財閥令嬢・黒羽 侑貴(クロバユキ)の執事、結崎 薫(ユウサキカオル)である。
突然の執事の登場に、侑貴は動揺を隠せない。少しの間オロオロしていたが、何か決心したような表情で結崎のことを見つめた。
「…お願い、薫。今回も見逃してもらえないかしら」