窓に影
一晩だけ恋人同士になった私たちは、ガトーショコラの日以外にお互いの相手を裏切ったことは、今のところ、ない。
バレンタインデーにダブルデートをして以来は、あの夜をネタにすることもなくなった。
歩はもう忘れてしまっただろうか。
私への、気持ちを。
「おい、これも忘れてんのかよ」
「もう忘れられないように教えてよ」
忘れているのは私の方みたいだ。
歩と過ごした時間、何をやってきたか……。
でも、気持ちはまだ忘れてないみたい。
教えてもらった問題さえ解けなくなった自分が情けなくて落ち込んでいる私に、歩がこんなことを言ってきた。
「進級が決まったら、お祝いに何かやるよ」
「え? マジ? あたし頑張る!」
「現金なヤツだな……」
俄然やる気の出た私は、呆れ顔の歩を横目に机に向かう。
張り切りだした私に安心したのか、歩も自分の勉強を始めた。