窓に影
「歩君のおかげよ~」
私の進級の話題だろう。
階段を下りると、父まで玄関に来ていた。
「恵里が世話になったね。ありがとう」
外面の良い歩は、爽やかな笑顔で対応していた。
「ほら、恵里もお礼言いなさい」
母の手招きに急かされる。
お礼って、改めて言うとなると照れくさい。
私は視線を合わせず、小さい声で言った。
「ありがと」
歩は両親に見せるような顔で微笑む。
「恵里も頑張ったもんな」
顔が熱くなったのを感じて、先に部屋へと駆け込んだ。
歩は部屋に入るなり、いつものように上着を脱ぎ捨てる。
すっかり歩用になった小さめの椅子に腰掛け、教科書を開きだした。
「ねぇ、テスト終わったのに何やるの?」
「新しいとこ」
声のトーンが明るい。
何か良いことでもあったのだろうか。