窓に影

 今日の歩は、気持ち悪いくらいに優しかった。

「あ、ここ計算違うぞ」

 いつもなら、

「こんなとこでつまんねーミスすんなよ」

 くらいトゲのある言葉が飛んでくるのに。

 調子が狂う……。

「うん、正解」

 トーンは明るいのにいつもの張りがない。

 私は気持ち悪さに耐えれなくなり、切り出した。

「あんた誰?」

「はぁ?」

 眉間にしわを寄せて、張りのある声。

 そうそう、それそれ。

「だって、さっきから様子がおかしいんだもん」

「何がだよ?」

「なんか優しくて……気持ち悪い」

 歩は呆れた顔をして私を見た。

「ふーん、強く言われる方が好きなんだ? 恵里は意外とMなんだな」

「バッカじゃないの? いつもと違うから調子狂うだけよ」

 あー腹立つ!

 言うんじゃなかった。

 
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