窓に影

 そう言われてしまっては、聞くこともできない。

 彼をここまで揺るがすものは何なのか……。

「恵里」

 呼ばれて振り向けば、歩は寝転んだ状態で両手を広げている。

「何よ?」

 求めているものが何かはわかるが、素直には飛び込めない。

「いいから俺を慰めろよ」

「は? 何で命令口調なわけ?」

「うるせーな」

 腕を掴まれ、強引に引き寄せられた。

 バランスを崩したところを、腕と脚を使って器用に胸の中へと収められる。

 気付いたら私の視界は真っ暗で、息をするのも苦しいほど。

 もがいて顔を少し上げると、歩の喉仏が見えた。

「何すんのよ、人の女に」

 先日の悠晴の言葉を借りると、歩はハハッと笑った。

 そして更にぎゅっと腕の力が強くなる。

 温かい。

 体の奥のほうからじわっと何かがこみ上げてくる。

 それを体中にめぐらすように、心臓はドキドキと活発に働き始めた。


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