窓に影

 慰めろってことは、嫌なことがあったんだろう。

 歩を苦しめているそれが妬ましい。

 でも悠晴の顔がチラついて、すごくいけないことをしているような気になった。

 自分は彼に、もっと大きな裏切り行為をさせておきながら。

「歩……?」

「全部俺のせいにしろよ」

 喉仏が動き、低くて色気のある声で囁かれる。

「は?」

「お前は何も悪くないから、全部俺のせいにしていいから。今は何も聞かずにこうしててよ」

「ちょっと、何言って……んっ」

 顔を上げた瞬間に、重ねられた唇。

 なるほど……。

 この状況の罪を、歩のせいにしろと言っているのか。

 顔が少し離れて目を開けると、歩はあの夜のような怖いくらい色気のある表情になっていた。

「安心しろ。今日は、チューしかしない」

「はぁ?」

 今日はってことは、今度があるということだ。

 
< 186 / 264 >

この作品をシェア

pagetop