窓に影

 そんな会話をしながら、つくづく歩と悠晴はタイプの違う人間だと思った。

 歩は「何が欲しい?」なんて一言も聞かない。

 賢くて真面目で、大人っぽくて素直じゃない。

 私も響子さんとは真逆なタイプだ。

 好きなタイプって、アテにならないんだな。

 それから母が部屋に来るまで、調子を取り戻した歩とギャーギャー言い合いながら過ごした。




 そして翌週。

 5日早いバレンタインからちょうど一ヶ月経った3月9日。

「まぁ~、わざわざありがとう」

 という母の甲高い声で、歩の来訪を確認する。

 ガトーショコラのお返しを受け取った母が、玄関で嬉しそうな顔をしていた。

「チーズケーキなんだ。みんなで食べてよ」

 階段を下りると、爽やかスマイルの歩と目が合う。

 正直、この作り笑顔は気に入らない。

 部屋に入り、もぞもぞと鞄を漁りだす歩。

「ほら、お返し」

 ぽん、と。

 置かれたのは頭の上。

「どこ乗せてんのよ!」

 落ちそうになったのをキャッチした。

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