窓に影
特にこの日は激しかった。
「ああ、もう俺無理」
突然そう言ったかと思うと、私の手からペンを抜く。
「ちょっと、計算の途中で止めないでよ」
私の言うことなんて聞いてないようで、そのまま私を抱きしめてきた。
再び唇が耳に触れ、ゾクゾクと全身が粟立つ。
「ねえ、どうしたの?」
「わかんねえ」
そう言って私を手放すと、髪をぐしゃぐしゃしながら部屋をぐるっと一周し、再び所定の位置に戻ってきた。
とりあえず、歩はモヤモヤしているらしい。
それだけは十分に伝わってきた。
欲求不満だろうか。
だからと言って、私の計算を邪魔しないで頂きたい……。
「二人とも、お疲れ様ー」
部屋に甘い香りが広がり、歩は爽やかな笑顔を作る。
母の前ではいつもの歩だ。
「じゃ、ごゆっくり」
そして母が去ると、気が抜けたようにモヤモヤしだす。
もしかして、私が原因?