窓に影

 特にこの日は激しかった。

「ああ、もう俺無理」

 突然そう言ったかと思うと、私の手からペンを抜く。

「ちょっと、計算の途中で止めないでよ」

 私の言うことなんて聞いてないようで、そのまま私を抱きしめてきた。

 再び唇が耳に触れ、ゾクゾクと全身が粟立つ。

「ねえ、どうしたの?」

「わかんねえ」

 そう言って私を手放すと、髪をぐしゃぐしゃしながら部屋をぐるっと一周し、再び所定の位置に戻ってきた。

 とりあえず、歩はモヤモヤしているらしい。

 それだけは十分に伝わってきた。

 欲求不満だろうか。

 だからと言って、私の計算を邪魔しないで頂きたい……。

「二人とも、お疲れ様ー」

 部屋に甘い香りが広がり、歩は爽やかな笑顔を作る。

 母の前ではいつもの歩だ。

「じゃ、ごゆっくり」

 そして母が去ると、気が抜けたようにモヤモヤしだす。

 もしかして、私が原因?

< 196 / 264 >

この作品をシェア

pagetop