窓に影

 逃げないよ。

 逃げたって家は隣だし。

「西山、久しぶりだね」

「ああ、相原さん。久しぶり」

「なんか色気付いちゃったんじゃないのー?」

「まあね、それなりに」

 中学卒業以来の二人は、懐かしそうに言葉を交わしている。

 この隙に逃げてしまいたい……。

 一歩距離を取ってみる。

 たった一歩のそれを、歩は見逃さなかった。

 離れた瞬間、がっしり手首をつかまれる。

「何よ、一歩離れただけじゃない」

「お前、いつ逃げ出すかわからないもん」

「逃げたって家は隣でしょ?」

「俺の手の届くところにいろ」

「マジ、あんた何様?」

「うるせーな。歩様だよ」

 その様子を、聡美は呆れたように眺めていた。
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