窓に影

 仕方なく歩とバスに乗り込んだ。

 下校時間のバスは、生徒だらけで座ることができない。

 二人でバスに立っていると、クリスマスの夜を思い出してきた。

 あの時私は酒に酔ってて、こうして揺れながら潰れていったんだっけ。

 いやいや、そうじゃなくて。

 今問題なのは、歩が北高まで迎えに来たことなのだ。

 授業の時間は同じなのに、なぜ下校時刻に南高の歩が北高にいたのだろうか。

「あんた学校終わるの早くない?」

「ああ、最後の授業で早退した」

「はぁ? わざわざ?」

「恵里に逃げられるよりマシだと思って」

 呆れた。

 賢くて真面目な歩が珍しくバカなこと考えたと思ったら、私の迎えのために授業をサボるなんて。

「あたしは逃げません」

「前例がある」

「前例があるから逃げないんですー」

「その精神を数学に使えよ」


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