窓に影

「あーあー。火傷するから触るなよ」

 私の代わりにびしょびしょになった袋を取り出した歩。

 こんな時に、優しいところなんて見たくなかった。

「あたしには大好きな彼氏がいるの。それで振ったことになるでしょ」

「ならないよ」

 バッサリ瞬殺され、私の言葉は効力をなくす。

 歩は私のコーヒーにミルクを入れ、くるくるとスプーンで混ぜながら付け加えた。

「振るならもっと俺を傷つけろ。冷たく突き放せ。嫌いだという意志を見せて、もう無理だと思わせろ」

 低く発せられた答えは、どれも難しい。

 そんな酷なこと、できないし、したくない。

「俺は奪う気だよ。あいつから」

 歩の手は左耳にかかる髪をかきあげ、ピアスの存在を確認すると、スーッと毛先まで降りていった。

「今日は何もしないって言ったじゃない……」

「しないよ。今日はね」
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