窓に影

 髪が歩の手から解放され、パラパラと耳の方へと戻っていく。

 その一本一本が触れる感覚さえ、私の全身を刺激する。

「奪うとか……なんでそんな自信満々なの?」

「自信なんてないさ。虚勢張ってるだけ」

 また一口コーヒーをすすり、母の作ったババロアを食べる歩。

「あと、触りたい欲求とか、頑張って気を張らせて耐えてるつもりだから」

 ガツガツとババロアを平らげ、少しぬるくなったコーヒーを一気飲みした。

「じゃ、手ぇ出す前に帰るわ」

 先週、本気で口説くと言った割に、歩はあっさりと帰っていった。

 身構えていたのが無駄に思えるほどの早い帰りに、からかわれているような気になった。









< 213 / 264 >

この作品をシェア

pagetop