窓に影
髪が歩の手から解放され、パラパラと耳の方へと戻っていく。
その一本一本が触れる感覚さえ、私の全身を刺激する。
「奪うとか……なんでそんな自信満々なの?」
「自信なんてないさ。虚勢張ってるだけ」
また一口コーヒーをすすり、母の作ったババロアを食べる歩。
「あと、触りたい欲求とか、頑張って気を張らせて耐えてるつもりだから」
ガツガツとババロアを平らげ、少しぬるくなったコーヒーを一気飲みした。
「じゃ、手ぇ出す前に帰るわ」
先週、本気で口説くと言った割に、歩はあっさりと帰っていった。
身構えていたのが無駄に思えるほどの早い帰りに、からかわれているような気になった。