窓に影

「あー。そうじゃないだろ。この場合、xに代入するのはさっきの式」

「そうだっけ?」

「恵里、先週俺の話聞いてた?」

「聞いてたつもり」

 歩のこととか悠晴のことで頭がいっぱいで、はっきり言って勉強なんてどうでも良かったし。

 歩の声はちゃんと聞いてたけど、身に付いていなかったようだ。

「つもり?」

「だって色々考えることとかあって……」

 しまった。

 ついつい口に出してしまった。

「考えること?」

「あ、いや。進路のこととか?」

 すると歩はバカにしたように笑った。

「進路よりもまずは卒業だろ」

「……おっしゃるとおりで」

 卒業、か。

 髪で隠しているけど、左耳の卒業の印、気付いてる?

 歩が私から卒業するように、私もあんたから卒業した……つもり。

 


< 239 / 264 >

この作品をシェア

pagetop