窓に影
聞き覚えのある上品な声に顔を向けると、そこには海を渡ったはずの響子さんの顔がある。
「響子さん! ロンドンにいるんじゃ……」
思わぬ再会に、私は読んでいた雑誌を棚に戻し、列を抜ける。
「今ね、イギリスでは夏休みなの。大学もお休みだから、一時的に帰国してるんだ」
なるほど。
国が違えば年間の行事も違うということか。
「そうだったんですか」
「うん。よかったら、お茶でもどう?」
「は、はい……」
雑誌を購入し、近くのコーヒーショップへ入る。
響子さんは相変わらずキレイで、上品で、歩と付き合っていた頃と何も変わっていなかった。
「お元気そうで、何よりです」
「ありがとう。恵里ちゃんも、元気そうね」
「あ、はい。おかげ様で」
この人と二人でいると緊張する。
カタい挨拶を交わした後、話は当然のように彼の話題へと移った。