窓に影
「歩は元気?」
うわぁ、来た……。
と思った。
今の私に、その質問は困る。
「わ、わかりません」
響子さんは首をかしげた。
「あら? 毎週会ってるんじゃなかったかしら」
「家庭教師は、先月で辞めました。受験勉強に力入れたいからって」
「そうだったの……」
ここで注文していた飲み物が運ばれてきた。
響子さんは紅茶にミルクをたっぷり入れて、細い指でスプーンを四回混ぜる。
私もコーヒーにミルクと砂糖を入れ、真似をして四回混ぜた。
「あの、イギリスでの生活ってどうですか?」
「うふふ、聞きたい?」
笑ってスプーンを置いた響子さんは、ミルクティーを一口飲んだ。
「結構キツいのよね」
「言葉が通じないから、ですか?」
彼女は首を横に振る。
「英語は何とでもなるんだけど、食べ物がマズくって」
笑いながらそう言う響子さん。
キツいとは言いながら、結構楽しんでる印象を受けた。