窓に影

 このメールを読んだ瞬間、なぜだか私の目には涙が溜まった。

 どんな気持ちでそうなったのか、自分でもわからない。

 戸惑いながらもティッシュで目頭を拭って、返信をする。

〈うん、元気だったよ。イギリスのジェントルマンに優しくしてもらってるって言ってた〉

 冗談めかしたメールを送信した。

 送信しました、と表示されて数秒後。

 私の携帯がまた震えだす。

 さっきとは震えるリズムが違う。

 メールではなく、電話だった。

 発信元はもちろん、歩だ。

「もしもし?」

「あー、俺」

 静かに語りかける声に、胸がキュッとなる。

「うん。どうしたの?」

「メール打つのが面倒になった」

 電話をかけてきた理由は、結構下らなかった。

 でも声を聞けるだけ、すごく近づけたような気がする。
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