窓に影

 母は不安そうな私の顔を見て、それを楽しむかのようないやらしい笑顔だ。

「ねえ、あたしちゃんと勉強するから、家庭教師なんていらないよ」

「遅いわよ。もう頼んじゃったもの」

 本人の意思も聞かずに、何て勝手な!

「毎週火曜日。7時から9時までの二時間だから」

 ご丁寧に日程まで決まっている。

 母の本気が痛いくらいに伝わってきた。

 私は牛乳を一気に飲み干して、ぷはっと思いっきりため息をついた。

「で、どんな先生が来るの? 大学生?」

 あまり気が進まないが、決まってしまっているのでは仕方がない。

 せめて心構えだけでもしたくて、相手の情報を聞こうと思った。

「あら、言ってなかったわね。隣の歩(あゆむ)君よ」

「えぇっ? 歩ぅ?」

 母が家庭教師に雇ったのは、隣のガリベン野郎、歩だった……。

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