窓に影
ハイテンションな母から引きずられるようにうちへ上がった歩が、私の部屋に押し込められる。
歩を部屋に入れるのは小学校五年生ぶり。
実に、六年ぶりだ。
「じゃあ歩君、恵里をよろしくね」
「あはは、頑張るよ」
母がドアを閉め、静まり返った部屋に二人。
どうしよう。
暖房の利いた部屋で歩がジャケットを脱いだ。
ベッドに放られパサッと音を立てる。
「ほら、始めるぞ」
そう言って机の椅子を引く歩。
久々なんだし積もる話くらいあるけれど、彼は既に仕事モードだ。
私は唾を飲み込んで引かれた椅子に座った。
歩の横を通った時、微かにいい匂いがした。
「ねえ、歩」
「なに?」
私の横に準備された椅子に腰掛けている歩を見る。
呼びかけてはみたが、あまりの変わりように何を言おうとしたか忘れてしまった。