窓に影

 ハイテンションな母から引きずられるようにうちへ上がった歩が、私の部屋に押し込められる。

 歩を部屋に入れるのは小学校五年生ぶり。

 実に、六年ぶりだ。

「じゃあ歩君、恵里をよろしくね」

「あはは、頑張るよ」

 母がドアを閉め、静まり返った部屋に二人。

 どうしよう。

 暖房の利いた部屋で歩がジャケットを脱いだ。

 ベッドに放られパサッと音を立てる。

「ほら、始めるぞ」

 そう言って机の椅子を引く歩。

 久々なんだし積もる話くらいあるけれど、彼は既に仕事モードだ。

 私は唾を飲み込んで引かれた椅子に座った。

 歩の横を通った時、微かにいい匂いがした。

「ねえ、歩」

「なに?」

 私の横に準備された椅子に腰掛けている歩を見る。

 呼びかけてはみたが、あまりの変わりように何を言おうとしたか忘れてしまった。

< 7 / 264 >

この作品をシェア

pagetop