窓に影
「メガネやめたんだ」
出てきたのはこんなセリフ。
中学の頃はメガネで、制服を着崩すこともしない地味な男子だった。
「ああ、今でもたまにかけるけどね。コンタクトのほうが楽だし」
そう言ってヌッとこちらに手を伸ばしてきた。
少し身構えたが、その手は机に置いてある数学の教科書を捕らえて戻っていく。
「で? 今どこやってんの?」
パラパラとめくる。
その風が彼の前髪を揺らした。
「数列だけど」
「ふーん。教科書だけ?」
「だけって? 他にもあるの?」
「いや、ないならいいんだ」
数列のページを開き、コトっと音を立てて私の左側に置いた。
勉強の準備が進んでいく。
あくまで家庭教師の姿勢だ。
積もる話は避けたいらしい。
「ていうか、同じこと習ってるのに教えられるわけ?」