夜の知るもの
 
どの位そうして飛んだだろう。
毎夜の如く、己の住まいなどとっくに見えなくなった一本杉の上に女は月より降り立った。

まるでそこに台(うてな)でも在るかのように、細い枝の上に立つ足は揺らぎすらしない。


女は一度深く息を吸うと、それを数倍の時間をかけてゆっくりと吐き出していく。


「この夜の空気も汚れたものよ…」

感情の見えない女の声は、低くもしかし子守歌のような心地を与える音色。

 
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