夜の知るもの
 
その目の見つめる先には、遠く大地に生きる人々の灯りが在った。


女が初めてこの一本杉の上に立った頃、人々はまだ夜に明かりを灯す術すら持たなかった。


「時はこうも、人を汚すか…」

次の声音にはどこか、自嘲が滲む。

「私も汚れてゆく筈だ」

くく…と小さく喉奥が鳴る。
女は微かに口角を引き上げ、笑みに似た表情を浮かべていた。

 
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