夜の知るもの
 
ぐらりと女の足元が揺らぎ、その身が後方へと傾いでゆく。
しかし女の背の翼は最早、羽ばたき舞う力を喪っていた。

「…生きてみるが良い…人よ」

天より堕ち、最も汚れた魂のヴェールが無くなったならば、一番汚れたものに成ってしまう人という存在が生まれる。

それでも。


「生きてみるが良い…人よ」


私はもう、疲れた。

女の躰は下降していく。漆黒の翼で羽ばたく事もなく、その速さは急速に増して。

しかし地面に辿り着く前に、夜に溶けるように女の躰は消えた。

 
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