反射


─†─

 走って逃げ出したかいあってか、三人組は追って来なかった。彼らも冷やかしのつもりだったのだろうか。しかし簡単に刃物を取り出すのはどうかと思う。

 自然と足は自分の家に向かっていた様だ。懐かしい自分のアパート。別に家を出てそんなに経っていないはずなのに、懐かしく感じるのは何故だろう。
 しかしやっぱりおかしい。表札の文字が鏡に映した様に逆になっている。そしてそれを見逃したとしても、表札の名字は『黒川』となっている。僕の名字は『高井』だ。全然違う。

 冷たい蛍光灯の明かりがついている。かばんの中の鍵を差し込み、ドアを開けた。






 「あら、どなた?」


 中に女が居た。


 ちなみに僕は彼女は居ない。居た時もあったが合鍵は渡していなかった。







 だからこの女が居るのは断じてあり得ない。

 そしてかろうじて出た言葉は、


 「ここ・・・僕んちなんだけど」

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