ハニー*スパイス
「最後に会ってきたら?」
優しい声でそう言われて、あたしは目を丸くする。
「最後……って。
岳さん、いつ行っちゃうんですか?」
「明日の午前中の便で立つって。
荷物も全部引き払ったから、今夜は空港近くのホテルに泊まるって言ってたわ。
あたしはさっきヘクセンハウスに行って挨拶してきたの。
今ならまだ居るんじゃない?」
「明日……」
今日会いにいかないと、もう二度と……顔を見ることもないかもしれない。
ギュッと胸がしめつけられるような感覚。
最後に見た顔が思い出せない。
だって、あたし……
サヨナラも言わずに店を飛び出したから。
「教えてくれてありがとうございます。
でも……あたしは行きません」
しばらく黙り込む冴子さん。
「そ。
まぁ、そう思うなら、しょうがないよね」
じゃ、あたしはこれで……と軽く手を振って冴子さんは人ごみの中に消えていった。