ハニー*スパイス
「冴子さんから、ニューヨーク……行くって、聞いて。
来ちゃった」
「……」
「考えてみれば、あたしちゃんと挨拶してなかったなぁ……って思って」
「……」
「遠いなぁ……」
「……」
「てか、ビックリしちゃった。
岳さんて超有名人だったんだねっ」
「……」
「こんなことなら、サインのひとつでももらっとけば良かったな」
「……」
「あっ、写メとか撮ってもらえば良かった!
そしたら、あたし学校で自慢するのに!」
「……」
「メアド……聞いとけば良かった。
って、携帯忘れてるしっ」
パンパンとコートのポケットを叩く。
「何か……形に残るもの……欲しかっ……」
我慢するつもりだったのに。
涙がこぼれた。
何も残らない。
たった、二ヶ月足らずの出来事は実態なんかなくて。
明日になれば、まるで魔法がとけるみたいに。
何もなかったことになってしまう。