ハニー*スパイス
初めて、レープクーヘンを食べた時、岳さんが言ってた言葉を思い出す。
たしかあの時、岳さんは
「売るために作ったわけじゃない」
って、そう言ってた。
「岳さんは……。
お母さんのことを想いながら、あのお菓子を作ってたの?」
「そうだよ。
オレ、お前の言うとおり、マザコンだし」
ハハッて自虐的に笑う。
その顔を見ていると、また胸が苦しくなった。
やっぱり岳さんはいつもここで、お母さんを待っていたんだ。
あの7歳のクリスマスイブからずっと……。
あたしは手を伸ばして、カウンターの上にある岳さんの手を握り締めた。
岳さんはそんなあたしの目をじっと見つめる。
「だけどこれは違う。
椿のこと考えながら、作ってた」