ハニー*スパイス
その瞬間、あたしの頭には子供の頃にパパから聞かされた話が浮かぶ。
“あの森には入っちゃいけないよ”
“あそこには怖~い魔女の家があるからね”
“甘いお菓子で可愛い女の子を誘いこんで……”
“それから……”
“食べちゃうんだ”
ブルッて身震いする。
まさかこの現代に魔女なんてありえない。
そうは思うものの、足に力が入らない。
だって目の前にいるこの人があまりにも現実的でなかったから。
「い、いえ……ケッコウです……」
そんな言葉をなんとか搾り出して、2、3歩後ずさり。
回れ右すると、一目散にその場から逃げ出した。
走って走って。
途中何度か足がもつれて転びそうになったけど、
とにかく無我夢中で森の中を駆け抜けた。