勇者ってガラじゃねぇ!
高級レストランで食い逃げして、前科者ならば身のほど知らずな行動に及んだ自業自得と不条理なりにも納得がいく。
けど……。
俺が今食べたモノ……。
水に近いビーフシチュー(肉なんて入ってなかったけど)
しなびたサラダ(雑草か?)
カチカチのパンと(カビさえ生えてなかった)
名前も知らない得たいの知れぬ魚のソテーと(ほとんど骨と皮のグロテクスな容貌)
虫にかじられたリンゴと……(でてきた時は焼きリンゴと間違えるほど色あせていたし)

やっぱ納得いかないメニューの数々……

値段だって……350HM(ハウメル)(1ハウメル=10円)
350HMで一生つきまとう犯罪暦!
俺の頭の中で近所の噂好きなおばさん達の罵倒の声が木霊する。
『聞きまして?なんでも食い逃げをして捕まったそうですよ』
『あら、私は強盗で捕まったと』
『ちがう、ちがう。連続殺人犯らしいわよ』
『『『怖いわねぇ』』』

堪えられない!
人の噂なんて気にするな!ってよく友達に言われるが、尾が付き羽根が生え、身に覚えない濡れ衣を着せられるのはまっぴらごめんだ。

「何かお困りのご様子ですね?」
声のする方を見上げると神経質そうな男が一人。
くいっと眼鏡を押し上げて、店主と俺の間に割って入ってきた。
「いやなにね。勘定ってんできてみれば、先っからこんな様子で…」
店主があきれたような物言いで、俺をちらりと見やる。
「ええ。あちらで様子を見ていれば、こちらの方。払う気はあるようだが、財布でも落としたようなご様子」
「財布を落とした?だったら、払えないってことじゃないですか!冗談じゃないですよ」
きっと睨みをきかす店主の視線に嫌な汗が背中を伝う。
「ちがいますか?」
「まぁ、そんなところなんですけど……」
払いたくっても払えない状況に正直に答えた。





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