ファーストキスは、最後のキス



ついつい、足が止まってしまう。

男バスの方から、聞こえてくるこの音。

先週も聞こえた…あの音が…また、蘇る。



「…さくら?」

「………。」



リツの言葉に、反応出来ない。

胸の鼓動が、ドクンッ、ドクンッて、少しずつ高くなる。




「ねぇ、さくら?どうしたの?」

「………翔…。」

「え?」




"タンッ、タンッ…"



ボールが、地面に落ちた音。



"ガゴンッ……!"



ボールをフリースローで投げて、リングに当たる音。



この音、このリズム。この足音。


男バスのバスケットコートは、更衣室の隣だから、更衣室の陰に隠れていて、よく見えない。

足が、ゆっくりと男バスのコートに動いていく。




「ち、ちょっと、さくら?」

「ごめん、リツ。ちょっと待ってて」




リツの言葉に、やっと反応すると、私は男バスの方へ小走りで行った。



「…あれ?」



そこには、誰もいなかった。

ボールも人も…なにもなかった。

空耳?

あんなにハッキリ聞こえたのに…。


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