初恋
「なんて書いた?」

そう言いながら、土田くんが覗いてくる。

「あっ…」

慌てて隠そうとしたけど、土田くんが見た方が早かった。

「ネバーギブアップかぁ。いい言葉だね。」



胸が ドキン ってなった。



一瞬、世界が止まったかのように感じた。



爽やかに笑う土田くんの笑顔が輝いて見える…



「あ、ありがとう。土田くんは何て書いたの?」

「俺のは普通だからいいよ」

「えー。いいじゃん。見せて〜」

嫌がりながらも、土田くんはプリントを見せてくれた。

そこには[思いやりの気持ち][為せばなる]と書かれていた。

「かっこいい!為せばなるかぁ。」

「為せばなる。為さねばならぬ。何事も。これ好きなんだよね。」


為せばなる…か…
なんかいいな。

「書き終わったか〜。後ろから回収!」

担任の大きな声が響く。

回ってきたプリントを前の席の子に渡す。

同じ桜小の子だったけど、しゃべったことのないその子。

お人形さんのようにかわいい笑顔でプリントを受け取ってくれた。

確か名前は菅井明日香ちゃん。

端役だけど、芸能事務所に所属して活動しているって話。

性格悪いなんて噂もあったけど、鈴の鳴るような可愛い声で話す彼女に、悪い印象は抱かなかった。


今日はこれで終わりのよう。

明日はホームルームと、新入生歓迎会。

通常授業は来週からだ。

真緒ちゃんに声を掛けて下駄箱まで一緒に行く。

校門で別れて母親を待つ。
明日も楽しみだな。

不安よりも今は楽しみの方が勝っていた。
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